でっていう電気通信事業法 (1)

2月 16th, 2010 | Posted by coq in 電気通信事業法

電気通信事業法が関連してるんじゃないか―という事例が増えてきて、そろそろ俺の時代だと思ったので書く。

まずはこの記事を見て欲しい:「無届けで自宅サーバーを運用していた」として逮捕?

簡単に言うと、FNNの報道で、以下のようなニュースが報道された。

インターネットのサーバーを無届けで自宅に設置し、中国の利用者向けにゲームサイトに接続していた疑いで、中国人の男が逮捕された。
電気通信事業法違反の疑いで逮捕された横浜市立大学の留学生で、中国人の范貝貝容疑者(27)は、2008年から2009年7月までの間、国に無届けで、神奈川・横浜市南区の自宅マンションに、海外からのアクセスを中継するサーバーを設置した疑いが持たれている。
利用者は、中国に住む中国人で、海外からの接続が禁止されている日本のオンラインゲームに参加していたという。
范容疑者は、自分のサイトに広告を載せ、600万円以上を荒稼ぎしていて、警察の調べに対し、容疑を認めているという。

これに対してスラド民さんが

「無届けで自宅サーバー運用」で逮捕というのはまったく意味不明なのだが、FNNニュースによると……とのこと。「自分のサイトに広告を載せ、600万円以上を荒稼ぎしていた」ことが、「無届けで電気通信事業を行った」と判断されたのだろうか?

と記事にしているが、この事例から電気通信事業法が何なのか見てみたいと思う。

そもそも、いわゆる電気通信の分野が自由化されたのはNTTの民営化時である。この時に、電気通信の分野を野放しにするのは良くないということで1984年制定の電気通信事業法である。銀行業界でいえば銀行法、保険業界であれば保険業法があるが、それと同じようなものである。

この電気通信事業法、(特に2003年の改正以降は)基本的には業界に対する規律の程度はかなり緩いのだが、それでもこの業界での事業については、登録もしくは届出が必要とされている。

では、どういった場合に届出が必要なのか。

厳密な法解釈は別の機会に譲るが、まず、「他人の需要に応じて電気通信設備を他人の通信の用に供すること」が前提条件となる(法2条3項、4項)。これはつまり、自らの(法律用語での)業務の遂行だけではなく、自分以外の者に対して提供するサービスを統制対象とするということである。同法が規律するのはあくまでも他者に対してサービスとして電気通信役務を提供する事業者であり、自己の需要のための電気通信役務を行うことについては電気通信事業には該当しない…①。なお、この通信における解釈としては、通信相手が特定されている(特定されない状態ではない)ことを要するとされている…②。

その上で、この電気通信事業が主体的・積極的意思、目的をもって反復継続的に遂行されており…③、かつ事業として独立して営まれている場合に、この電気通信事業を行っているものを電気通信事業者として統制する仕組みとなっており、これに該当するものは法164条の除外規定に該当するものを除いて、登録または届出が必要となる。つまり、他人との通信を提供することを、本業もしくはそれに準じるものとしてやっている人は書類を出してね、ということである。

以上が簡単な(簡単すぎる?)電気通信事業法のあらましであるが、次に本事例を見てみる。

  • 中国の利用者向けにゲームサイトに接続…海外からのアクセスを中継するサーバーを設置した

これは、企業が自分でネットゲームを提供して利用者に接続させるのではなく、容疑者の提供するサービスによって、中国の利用者-ゲームサイトという通信を成立させたということである。これは即ち①には該当せず、また通信相手も特定されていることから②の要件も満たす。

次に、

  • 范容疑者は、自分のサイトに広告を載せ、600万円以上を荒稼ぎして

より、容疑者がこの事業により収益を上げていたことが判断される。

収益性は事業性(③)のメルクマールとされており、従って、例え利用者から直接の収入を得る形ではなかったとしても事業性が認定される。

簡単に言えば、今回の摘発の要旨としては、「中国の利用者-ゲームサイトって通信をさせて、それでお金儲けのビジネスしてるんなら届出くらいしなさいよ!バカ!」ということである。

スラドの#1718942にリンクが貼られていたMOBILEHACKERZ再起動日記さんの記事においては事例がいくつか紹介されているので、興味がある方は参照されたし。

尺にまだ余裕があるようなのでいくつかスラドのコメントに対するコメントを。

  • #1718806 個別具体的な事例ではないので断言はできませんが、放送における区域外再送信の事例が参考になるかと思います。なお、放送(電気通信役務利用放送を含む)と電気通信事業では規律の枠組が全く異なりますので、ご注意ください。
  • #1718841 こういったプロキシサーバを運営すること自体は合法です。ですが、接続制限をしてもIPアドレスを変えられるだけですので、今回は無届けで運営していたところをついての摘発を狙ったと考えられます。
  • #1718872 基本的には、会員限定のコミュニティサイト内のメッセージ機能のようなものだけでは、電気通信事業者には該当しないと考えられます。
  • #1718915 恐らくその通りです。
  • #1719064 メールサービスの提供、プロキシサーバ等他人の通信を媒介することをしていなければ、アフィなりなんなり自由にやっても、元々電気通信事業には該当しないため、問題ないでしょう。
  • #1719073 法1条においては、「この法律は、電気通信事業の公共性にかんがみ、その運営を適正かつ合理的なものとするとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進することを目的とする」と定められているので、むっちゃ公共の福祉に関連します。そもそもこの法律自体、前述の通り、通信自由化してNTT民営化しても、公共の福祉が維持されるようにしようね!という法律です。
  • #1718881 はい、非常に少ないです。そもそもこの法律の制定が1984年であったにもかかわらず、同種の摘発が、2003年の事例が最初だったはずということからお察しください。
  • #1718901 他人の通信を媒介するか否かで判断されます。
  • #1718957 中国国内においても多くの場合違法なサービスであり、それをおとり捜査的な手法とはいえ企業が利用することには大きなリスクが伴うと考えられます。

55mailとかについては触れることが多いので次の記事で触れる。なお、現在のところこの記事は3部構成を予定している。

最後に、より詳細な研究がしたい方のための参考資料としてはスラドの#1718874にも掲載されているが、総務省の電気通信事業参入マニュアル[追補版]を、更に物好きな方のための参考文献としては多賀谷一照ほか『電気通信事業法逐条解説』(2008)を推薦しておく。

追記:2/17

類似事例で、ネトゲ業者からの依頼によって電気通信事業法違反→偽計業務妨害のコンボが決まった事例が最近あったようです。警察の上の方で何かの動きがあったのかもしれません。

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